アンドリュー・ニコルの初監督作にして最高傑作(と私は思う!)であるガタカを16のシーンに分けて、シーン別に完全解説します。

ガタカが好きすぎて、全セリフの書き起こしをしてしまいました。そのセリフを見ながら16のシーンに分けて分析しました。

オープニングからラストまでそれぞれのシーンにどのような意味があるのか、僕なりの解説を書いていきます。

ところで、ガタカの最大の謎というか、解釈が難しいのがラストシーンのジェローム・ユージーン・モローの自殺ですよね。

その説明をするためには、ガタカのすべてのシーンを見ていく必要があります。

それぞれのシーンが何を意味するのか? 何を伝えようとしているのか? 各シーンの解釈を積み重ねていくことで、はじめてラストシーンにどんな意味があるのかを考えることができるのです。

しかし見るたびに、「あれ、もしかして今までの解釈は違っていたのかも・・・」と悩むことも度々あります。そんな新しい発見があるのもガタカの魅力の一つです。

自分の中でさえ、見るたびに解釈が変わることがあるのですから、人によって様々な解釈があるのは当然。

だからガタカの解説に正解はないと思います。いろんな人の解説・感想を読みながら自分なりの解釈を作るのが面白いんです。

ガタカは見れば見るほど、本当に無駄のない完璧な作品だと感じます。

ラストシーンの解釈とともに、ガタカが扱っている様々なテーマ、象徴的なモチーフについても解説していきます。

この記事はガタカマニア以外は読んでも面白くないと思われるであろうことを最初にお伝えしておきます。

ガタカ・オープニング

ガタカのオープニングは青い画面から始まり、何かが落下してきます。いったい何が落下しているのか、この段階ではわかりません。

地面に激しく激突し、かなりの音が反響しています。

しばらくすると何か雪のようなものが降っているかのように見えます。

何が降っているのか? さらにはなぜ降っているのか? そんな疑問が沸き起こってきます。

すると、男性が無精ひげを剃っていることに気付きます。

さっき、さらさらと降っていたのはもしかしてヒゲ?

そしてなんか体をこすっているぞ? シャワールーム?

かと思ったら、燃え出した!焼却炉!?

自分の体から落としたものを燃やした?なんで?

その焼却炉みたいな物体から出てきた男は、足に黄色い液体の入ったパックをセットします。

そして血液を注入したフィルムっぽいものを指先に貼り付けました。

次に建物から車で出てくるシーンが続きます。

謎めいたオープニングで引き込まれます。

ガタカ・オープニング解説

ガタカのオープニングシーンは、主人公ビンセントの生き方への導入です。

自分の体から出る自らの痕跡を洗い落とすだけでなく、焼却するシーンは、冷たい色相の青が炎へ入れ替わるという光の変化が印象的です。

極端な光の変化により、自分の痕跡を消す作業が強調されています。

ガタカではこのように光(色)を対比させることで、差異を際立たせる手法が他のシーンでも使われます。

自分の痕跡を消した後、保存してある尿や血液をセットします。

自分のアイデンティティを捨てて、他人のアイデンティティを身に着けることが強調されています。

オープニングで流れる音楽はマイケル・ナイマンの「The Morrow」です。

ジェローム・ユージーン・モローのMorrowを暗示していますよね。このMorrowが何を暗示しているのかの解釈によって、ラストシーンの見方も変わってくるような気がします。

ガタカ・シーン1.僕はジェローム・モローではない 4分~9分

ガタカ施設内のパンニングショットから始まります。無機質な印象を受ける内装です。

スーツに身を包んだたくさんのワーカーがエレベーターを昇っていく様子が映し出されています。

ローアングルで撮影されたエレベーターを昇っていく人物たちは、社会のエリートであることを示しています。

そしてカメラは主人公となるビンセントにズームインしていきます。

落ち着いた態度と自信に満ちた足取りです。

ジェロームと紹介された男は小さな掃除機を使ってコンピュータのキーボードの隙間を掃除します。

彼が自分のDNAの痕跡を消すためにやっていることはまだわかりません。

そして小瓶を開け、何やら振りかけています。

ビンセントの背後からガタカの責任者ジョセフが近寄ってきます。

ジョセフ:君は相当なきれい好きだな ジェローム
ジェローム:”清潔は信仰に似たり”と
ジョセフ:信仰か 飛行計画書にもタイプ・ミスひとつない 驚異的だ 土星へ飛ぶにふさわしい
ジェローム:打ち上げ延期の噂を聞きました
ジョセフ:心配ない 予定通り1週間後だ 薬物検査を

ジェロームと呼ばれる男が宇宙飛行士であり、1週間後に土星に向かうことが判明します。

このときのジョセフのセリフ「(君のような人間が)土星へ飛ぶにふさわしい」はビンセントの優秀さを(DNAが劣っているにも関わらず)強調しています。

ガタカ内でビンセントのポジションが語られています。

続いてシーンは検査室へ。

レイマー医師との会話です。

レイマー:自由自在に小便が出るね モノは実に立派だ
ジェローム:そればっかり
レイマー:職業病かな 毎日山ほど見るが 君のはズバ抜けて素晴らしい うらやましい限りだ ところで息子の話はしたかな?
ジェローム:いいや
レイマー:いずれ話す あと1週間で土星行きか ワクワクするだろ?
ジェローム:どうかな

ここで、「なるほど、最初に脚にセットしたアレは尿か」と気付きます。

尿サンプルが分析されると、コンピュータの画面に「ジェローム・モロー」という名前が表示されます。

名前の横には「VALID」(適正)の文字が。

どうやら身分を偽っているらしいことがわかってきます。

コンピュータの画面には無限大(∞)マークも表示されています。成功と無限の可能性を暗示していますね。

次のシーンはビンセントがガタカの窓から、地球を離れていく宇宙船を見つめているときに、アイリーンが近づいてきます。

アイリーン:おめでとう
ジェローム:どうも
アイリーン:毎日1ダースのロケットが空へ
ジェローム:もっとだ
アイリーン:数えてるのね 無関心を装うなら見てはだめ

そしてビンセントのナレーションが入ります。

(誰も驚きはしない 宇宙飛行士ジェローム・モローが 土星の14番目の月タイタンへ飛び立つ 難しい選考試験もジェロームにはたやすかった 彼は宇宙飛行士に必要な資質を 生まれつき備えている ジェロームにとっては何の快挙でもないが 僕はジェロームではないのだ)

ここで映画の冒頭シーンの意味が分かります。ここで一気に作品世界に引き込まれます。

ガタカ・シーン1解説

オープニングからシーン1にかけて、曲線と直線が印象的に対比されています。

直線

・ガタカのエスカレータ―で上る人々の列
・ビンセントが見つめるロケットの軌道

曲線

・オフィスの半円形のデスク
・ロケットを見つめる天窓の流線形

冒頭の引用「神が曲げたものを誰が直し得よう? 伝道の書」に何か関係がありそうです。

ちなみに、「神が曲げたもの」はビンセントのメタファーですよね。

「神が曲げたものを人間が触れるな!」つまり、遺伝子操作への嫌悪感を表出しているのではないでしょうか。

ところで、レイマー医師の「ところで息子の話はしたかな?」 このセリフが実はすごい伏線になっていたんですよね。この時点で伏線と思った人は少ないでしょう。

ガタカ・シーン2.ビンセントの子供時代へフラッシュバック1 9分~15分

ビンセントのナレーションから始まります。

(僕はリビエラ生まれ フランスではなく車の”リビエラ”だ ”愛の結晶”として生まれる子は幸せ? 昔の話だ なぜか母は遺伝子学者より神にすべてを託した 昔は”健康体ならよし”などと言ったが 今や出生数秒後に推定寿命と死因が判明する )

画面はセピア調になり、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。

ビンセントの出産シーンにはロザリオと十字架がクローズアップされます。

そして看護師のセリフ

看護師:神経疾患の発生率60% 躁鬱病42% 注意力欠如89% 心臓疾患・・・99% 早死にの可能性あり 推定寿命は30.2歳

そのセリフにビンセントの父親が反応します。

父親:たった30年?
看護師:名前は?
母親:アントン
父親:いや ビンセント・アントン いい名前だ
母親:きっと何かやり遂げるわ

赤ちゃんに付けられた名前は「ビンセント・アントン」。この名前に大きな意味があるのです。

ビンセントは、ラテン語の動詞「Vincere」(征服する、勝つ)に由来しています。

これはあらゆる困難を克服して成功を得ることを意味すると同時に、アントン(ビンセントの弟)にも勝つという意味が込められていると思います。

ガタカはそれぞれの登場人物の名前に深い意味が込められていますよね。


次に、ビンセントの体の弱さ、社会から拒絶されている様子が描かれます。

母親:ビンセント!

(健康でないことは幼い頃に悟った かすり傷や鼻水ひとつで大騒ぎだ )

先生:学校では責任を負いかねます
母親:でも・・・
先生:申し訳ありませんが

ビンセントの両親は次の子供は”自然”な方法で生むことを決意します。

ガタカの世界ではテクノロジーによる操作こそが”自然”なのです。

(ビンセント:僕の両親は当然のごとく決意した 次の子は”普通の方法”で作ろうと)

医師:マリーさんの卵子がアントニオさんの精子を授精しました 健康な男子と女子が2人ずつ残っています 遺伝性疾病の要因はなし あとは選ぶだけです まずは性別から ご希望は?
母親:弟を作りたいんです 遊び相手に
医師:やあ ビンセント ご希望は薄茶色の目と黒髪と白い肌 有害な要素は排除しました 若ハゲ 近眼 酒その他の依存症 暴力性 肥満
母親:もちろん病気は困りますが
父親:ある程度は運命に任せるべきでは
医師:子供の幸せのためです 性格的な欠点で十分 ハンデは無用です お2人の子供です しかも最高の 1000人に1人の傑作です

こうして弟のアントンが誕生します。

(ビンセント:それが弟のアントンだ 父の名を継ぐにふさわしい息子)

弟のアントンが身長を測った後、ビンセントが柱に描かれた自分の身長の記録を消します。

この柱に描かれた線によって、はしごのように見せています。

DNAの分子が、らせん状のはしごになっていることをイメージさせます。DNAのはしごにおいて、ビンセントよりアントンが上だと示しているのです。

ビンセントが身長の記録を消す行為は3つのことを暗示しています。

①自分の置かれた状況を拒否する強い意思
②自己嫌悪(両親への恨みもある?)
③自分を消して他の誰かになる


このシーンに続くのが、ガタカにおいて最も重要なシーンと言える海での競争です。

(”血の契り”を結ぶ年頃には弟との違いを痛感していた その差は決して縮まらないことも 僕らはよく両親の目を盗んで度胸比べをした 先に引き返すと負けだ)

アントン:臆病者
(ビンセント:負けるのはいつも僕だ 体力で勝る弟が先にバテるはずはない)

なぜ水泳なのか?

後に出会うジェローム・ユージーン・モローも水泳の選手でした。

つまり同じ物差しで評価しているのです。

子供の頃のアントンはビンセントよりも上、ジェロームはさらに上。

この時点でのヒエラルキーを示しています。


次に、ビンセントの宇宙への夢が語られます。

ビンセント:5億キロ 6億キロ・・・13億7000万キロ

(ビンセント:星への愛情か地球への憎しみからか 物心ついた頃から宇宙飛行士を夢見ていた

アントン:宇宙飛行士は何人? 僕なら絶対なれる
ビンセント:食べるなよ 冥王星だ

ガタカ・シーン2の解説

ビンセントとアントンの違いが様々な工夫によって描かれています。

身長の測定や海での競争はもちろんですが、光の使い方によってもアントンとビンセントの違いが表現されています。

ビンセントは淡い夕暮れの海で生まれています(正確にいうと受胎?)。

一方、アントンが最初に登場する身長を測るシーンでは明らかに照明が変わり、光が強まります。アントンは輝く光を浴びているのです。

この光の対比によってビンセントとアントンの違いが無意識のうちに見る者の心に刻まれます。

また、ガタカのモチーフのひとつが”海”ですが、これは自然を意味しています。

ビンセントが海辺で生まれているのは、ビンセントが自然の産物として表現されているのです。

さらにビンセントの出産シーンではロザリオと十字架がアップになります。これは神の子として「神が曲げて作ったもの」を表現しているのでしょう。

生まれた後は、ビンセントがいかに社会に適応できない存在かということが、これでもかというくらい描かれます。

  • 看護師のセリフ
  • 幼児だったヴィンセントが転んで母親が慌てて駆け寄るシーン
  • 保育園に入園を拒否されて鉄格子の門がを閉められるシーン
  • 両親が遺伝学者(医者?)を訪ねて遺伝子操作をしているシーン

その原因はDNAにあるわけですが、それを示しているのがビンセントがおもちゃで遊んでいるシーンです。

DNAの模型みたいなおもちゃで遊ぶシーンがありますよね。

これは遺伝子をおもちゃのようにもてあそぶことへの強烈な皮肉です。

最初の海での競争では、アントンが”血の契り”を拒否しています。同じ血を引く兄弟であることを否定しているのです。

アントンが弟よりも身体能力が高く、力強く前を泳いでいる様子が描かれ、遺伝子の壁の大きさを強調しています。

ガタカ・シーン3.ビンセントの子供時代へフラッシュバック2 15分~18分

ビンセントがティーンエイジャーの頃へフラッシュバックします。

母親:ビンセント その心臓で受かるはずないわ
ビンセント:可能性が無いわけでもない
父親:100分の1だ
ビンセント:賭けてみる
母親:無理よ
父親:おまえの能力には限りがある 宇宙飛行士にはなれない

アントンや両親とは別に座って朝食を食べているビンセントの様子から、ビンセントが阻害されていることがわかります。

同時にビンセントが夢をかなえるために準備をしていることも伺えます。

アントンはただ食事しているだけですが、ビンセントは本を読みながらですからね。

しかし両親は辛らつです。息子の努力よりも遺伝子を信じる社会であることが強調されています。

そして面接に行ったシーンでは、面接を受ける前に撤退。その理由が独白されます。

(ビンセント:父の言う通り 履歴書を偽っても細胞はウソをつかない 選ばれるはずがないのだ 健康な応募者が大勢いるのに 遺伝子による差別はもちろん違法だが 法には大した力がない 必死で隠してもドアノブを触ればバレる 握手や封筒についた唾液からも 疑いのある者は尿検査を受け 会社への適正を判断される)

どれほどの憤りを感じていたことでしょう。

努力よりも遺伝子で適正を判断されることへの怒り。

これが次のシーンにつながります。アントンとの2回目のチキンレースです。

ビンセントにとってアントンは遺伝子の壁の象徴です。

その象徴を打ち砕かない限り、つまりアントンに勝たない限り、ビンセントは未来が開けないと考えていたはずです。

アントン:本当にやるの?どうせ負けるよ
(ビンセント:これが最後の度胸比べになった 水平線に近づくほど帰る距離も長くなる その日はいつもと違い 僕は弟から離れずについていった そして奇跡が起きた)
アントン:ビンセント!
(ビンセント:僕たちの体力差が この時初めて逆転したのだ あらゆる不可能が消えた)

アントンは自分の遺伝的な強さを信じ、努力や忍耐なしに目標を達成することができると信じています。

それが「本当にやるの?どうせ負けるよ」というセリフに表れています。

しかしビンセントの独白の通り、奇跡が起きました。ここからビンセントの人生がスタートします。

ガタカ・シーン3の考察

なぜ海なのか?なぜ水泳なのか?

走ることや、球技ではなぜダメだったのか?

ここをどう考えるかがシーン3のポイントです。

体力的な競争ということなら、マラソンでもいいはずです。バスケットボールの1 on 1 でもいいわけです。

それにも関わらず、なぜ海での競争だったのか?

海、水泳はガタカの重要なモチーフです。

海は何のメタファーなのか?

僕は海=自然を暗示しているのだと思っています。

また生命の源であることも暗示しているのでしょう。

つまり、ビンセントは自然から生まれた存在だと強調しているのです。

(ガタカの世界では、自然に生まれる=不自然ではあるのですが)

だからマラソンや球技ではなく水泳なのです。しかもプールではなく海なのです。

自然の存在であるビンセントが、ガタカの世界での自然であるアントンに勝ったというのは、単にビンセントの努力が実ったということを表現したいのではありません。

遺伝子を操作するという自然に背く行為を痛烈に批判しているのです。

しかもアントンを助けるという念入りなおまけ付きで。

シーン3は自然な存在の持つ可能性と、遺伝子操作の限界を表現しています。

遺伝子操作の限界については、ジェローム・ユージン・モローやアイリーンの存在自体でも表現されていますよね。

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